hatuncle007’s diary

百年先の日本を考えよう

奪われる日本」関岡英之著(講談社現代新書)を読む。

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「奪われる日本」関岡英之著(講談社現代新書
1945年8月15日日本の無条件降伏で日本を占領したアメリカをして「これほどまでに上手く行くとは思っていなかった」と云わしめて久しいがおっとどっこい現在に於いてもアメリカの日本支配は意気軒昂である事実をこれでもかと突きつけるのがこの本である。国会でも何回か議論の俎上に上げられた例の「年次改革要望書」が何たるかを分かりやすく解き明かす入門書としても実に重宝するに違いない。そもそもこの要望書なるものは1993年の宮沢・クリントン会談で合意された「日米間の新たな経済パートナーシップのための枠組み」(日米包括経済協議)に端を発していると筆者は指摘する。そしてこれは2001年の小泉・ブッシュ会談の「成長のための日米経済パートナーシップ」合意へと引き継がれアメリカによる日本改造は着実に進められていると指摘する。
 著者は具体的な事例として経済産業省の公式サイトより90年代後半から「主要な法制度改正(○金融ビッグバン等の部門別規制緩和 ○純粋持株会社解禁等の商法・会社法の改正 ○連結会計に実質支配、影響力基準の導入等の会計基準・監査制度の改正 ○労働者派遣法の派遣業務の対象範囲の原則自由化等、労働の流動性促進 ○SPC法等による土地の流動化の促進<P.112~3>)」を挙げている。そして小泉純一郎前総理が賛否両論渦巻く中衆議院の解散までして強行した「執念の郵政の民営化」もアメリカの強かな戦略に奇しくも合致したものである事を明らかにしているのである。
 確かに日本経済は日米安全保障条約の下アメリカとは切っても切れない関係にあり「今更何を云うか」と云われればそれまでではあるが民主主義国家を自認するのであれば国民に知らされないままに気が付けばアメリカの属州になっていたと言うのでは余りにも寂しいのではあるまいか。筆者も指摘するように日本のマスコミ、殊にテレビ新聞も国民の「知る権利」を些かなりとも保障する社会の公器を自負するのであればそれこそ命懸けでかかる問題は報道して貰いたいものである。国民生活に直結している事が十分知らしめられることもなく極一部の特殊な人たちによって実質的に決められているとすればあの大東亜戦時下よりも酷いと云わざるを得ない。何故ならば大東亜戦争時にあっては一億国民は米英と戦争している事くらいは百も承知していたのであるから。
 本書は僅か190頁の新書であるが「年次改革要望書」を踏まえ「医療、談合、訴訟社会、皇室etc」へと筆鋒は鋭い。筆者(1961年生まれ)の若きエネルギーが随所に漲っていて読む者にも小気味いい。不図明治維新も30代を中心にした志士たちによってなされたことに思いを致せば何か救われる思いもしたりして遂若き筆者にエールを送りたくなるのは強ち小生のみであろうか。以上。