hatuncle007’s diary

百年先の日本を考えよう

「栗林忠道硫黄島からの手紙」栗林忠道著 解説半藤一利 文藝春秋刊

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栗林忠道硫黄島からの手紙」解説半藤一利を読んだ。栗林中将が第109師団長に着任直後の小笠原諸島への赴任であった。栗林中将は司令部を父島には置かず敢えて硫黄島に置いたのは本土防衛への決死の覚悟が既にあったからに違いない。この本に収録されている手紙は栗林中将が硫黄島に到着して暫く経った昭和19年6月25日から昭和20年2月3日付けまでの妻義井宛てのもの24通、長男太郎宛のもの7通(内1通は長女洋子と連名)、次女たか子宛のもの6通、妻子宛てのもの4通の計41通である。どの手紙を読んでも中将が妻子に対してどれ程深い慈愛を持たれていたかを容易に窺い知る事が出来る。特に次女たか子への思いやりは一入であり長男太郎への訓育は正に人を育てる要諦とも痛感させられた次第である。また子供たちへの手紙では誤字脱字を厳しく注意されていることには敬服する。正に藤原正彦氏が言われる様に「祖国とは国語」なのである。本土防衛の最前線に身を投じて尚且瑣末とも思える事柄を含め家族を慮る事が出来るあの余裕には畏敬の念を禁じえない。ここで筆者にとつて最も印象的な手紙を挙げさせて貰うならば昭和19年11月27日付長男太郎宛のものと昭和20年1月18日付次女たか子宛の2通である(末尾に抜粋引用)。団塊の世代を含め戦後の大人たちに栗林中将の家族との深い絆、家族への思いやりと家族への愛の一欠けらもあったならば今日の如き子殺し親殺しなど物騒な社会にはなっては居なかったろうと悔まれて已まない。強いて一言コメントをさせて頂くならば先ず半藤氏の解説から読まれることをお薦めしたい。何故なら栗林中将の軍務についても多少なりとも事前に知識を持っていた方が手紙を通してより栗林中将の実像に迫る事が出来るかも知れないと思うからである。
 手紙抜粋
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 ・・・扨て今日は十一月二十七日、お前の誕生日であるが而かも満二十年の誕生日でま ことに意義が深い気がする。・・・・・・・先ず「自己反省」が修養の第一歩である事 をよく弁えるがよい。父がいつも申す通り、男には「意志」の鞏固と云う事が何より大 切である。意志の弱い男は何が出来ても役に立たない。否時として想像も出来ない悪い 事すらする。極端な例ではあるが、殺人とかの重罪犯人は見るからに弱々しい意志の薄 弱のものである事が少なくない。之れは物事をジット堪える意思がなく、ついカットな って自分では考えもしない重大の過失を犯すに至るのである。其の他、悪いと知っても 改められず良いと知っても実行できないのも、結局意志の力が足らないからである。此 く考えて来ると、意志が万事を支配する事も人間が成功するかしないかも、其の人の意 志一つである事がよく分る。・・・・そこで満二十年の誕生日を機会に、将来意志の鍛 錬に専念し、常に薄志弱行を戒め鞏固の意志で物事に当り強く逞しい誰からも頼り多い 人物となる様心掛ける事を祈る訳である。<p.92 ~93から抜粋>
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  たこちゃん、元気ですか?お父さんは元気です。・・・「全優」になっても・・・決 して高慢したり油だんしたりしてはいけませんね。それともう一つ大切な事は、からだ を丈夫にする事と誰にでも好かれる様な人にならなくてはいけない事です。誰にでも好 かれるには、勉強が出来る許りでなく誰にでも親切にしていじ悪や皮肉をしない事で。 之は大人になった場合一番必要の事で、女の子はなお更そうです。・・・戦争がひどく なる許りですから生きて帰れない方が多いかも知れません。其の時はたこちゃんはお母 さんの言う事をよくきゝ、早く大きくなってお父さんのかたきをとる様にしてください ね。では左様なら。からだを丈夫にしてかぜなど引かぬ様になさい。
 昭和20年1月18日 お父さんより  たか子ちゃんへ <p127~128から抜粋> 以上。